**みやび通信第15号(通刊第51号) 2004 (平成16) 年1月10日 発行:KAZU**

第 15 号
食への挑戦(1) 果物編



◎ことはじめ

 学生時代、私の母校、大阪府立大学農学部の遺伝育種学の教授は中尾佐助先生 (1916〜1993年) でした。中尾先生は、世界のコムギのゲノム分析 (生物が生命を維持するのに必要な最小限の染色体の組み合わせを使って遺伝的系統を分析する方法) でコムギの系統を体系付けされた木原均先生のお弟子さんで、専門は勿論植物遺伝育種学ですが、作物の栽培法や食文化の面からアプローチした民俗学的研究でも大変有名で、多くの著作を残されています。

 中尾先生の経歴、著作についてはこちらをどうぞ。

 講義でも多くの実例やエピソードを示され、学ぶところが多いものでした。「オオムギ、コムギ、ライムギの見分け方」などは先生の学生時代のお話を交えての基礎的なお話でした。イネ科植物の花の構造を学ぶと、オオムギとコムギは全く異なる花の着き方をします。オオムギやコムギ、特にコムギは大変品種が多くて、これが同じ植物かと思う程、見かけの違う穂を着けますが、花の着き方は同じなのでオオムギとコムギを見誤ることはありません。具体的に示すと専門的になりますので省略しますが、先生曰く「農学部を卒業したからには、オオムギとコムギとライムギの区別ができなくてはいけない」ということでした。
 そしてまた、ある講義では「農学部に入ったからには色々なものを食べなくてはいけない」とも教えられました。この教えに従って、学生時代から色々な食材(野菜、果物)に挑戦してきました。今ではポピュラーなものもありますが、私が挑戦してきた食材について、そのいきさつと感想を振り返ってみたいと思います。


(1) アボガド(avocado, クスノキ科)

 アボガドは英語では Avocado (アヴォカード) で「カ」に濁点は付かず、アボカドが正しい訳ですが、殆どアボガドで流通していて、もう日本語。今更訂正することもないかと思いますが、英語の時は正しく発音しないと通じません。
 今では誰でも知っている果物ですから、説明は不要ですね。熱帯アメリカ原産、クスノキ科の常緑高木で紀元前から栽培されているということです。日本では各地から通年輸入され、年中100円前後の価格で手に入れることができます。これも日本で普及して需要が安定しているからで、ニュージーランドでは夏場は1NZ$(約70円)を割る値段ですが、冬場は2NZ$(約140円)を超えます。ニュージーランドでは1NZ$は日本の100円くらいの感覚ですから、日本の方が年中安く食べられるということになります。今から25年前、初めてアボガドを食べようとしたとき、売っているのは百貨店の熱帯フルーツ売り場しかありませんでした。相場は1個500円。最初は経験がないので熟度の見極めが難しかったので結構買うのに勇気がいりました。本に書かれているように、縦に割り種を除いてレモン汁をかけて、塩をふりかけて食べてみました。正直うまくなかったです。日本人の果物の感覚から大きくはずれたもので、「くだもの」として食べようとすると無理がありました。二度目からは即サラダにしました。今や寿司だね等、ご存じの通り。
 種は水栽培すると発芽します。低温には弱いですが、鉢植えにして室内に取り込めば越冬も可能です。ちょっと風変わりな観葉植物になります。


アボガドの鉢植え



(2) パパイヤ (papaya, パパイヤ科)


 パパイヤも今では珍しくない果物ですね。25年前はやはり百貨店の熱帯フルーツ売り場で約600円でした。縦に切って黒い種を除き、レモン汁をかけて食べました。これは問題なく100点。そのままでは酸味が全くなく、独特の香りと甘味があります。
 奄美、沖縄では未熟果を野菜として食します。熟果の種は夏場に播けばよく発芽してグングン大きくなりますが、15℃で成長が止まり、10℃以下では越冬が難しくなります。温室(またはその代わりのもの)がある方は挑戦してみては。


これが初挑戦したパパイヤ



(3) ジャックフルーツ (ナンカ, jackfruit, クワ科)


 インド原産だそうですが、最初にこの木を見たのはブラジルでした。常緑の高木で、実は円筒形直径20〜40センチ、長さ30〜60センチ、重さが10〜20キロの巨大なもの。重いので実は太い枝または幹に直接成る幹生果。未熟なものは野菜として使うそうです。ブラジルでは1個売りしてました。それほど高くはありませんが、なかなか1個は買えません。表面は蜂の巣状の凹凸があり、放射状に果肉が詰まっています。香りは強く甘味と適度の酸味がありますが、香りが日本人向きで初めてでもおいしくいただけます。東南アジアの果物屋さんや屋台の切り売りが手軽です。タイで生を食べましたが、ドライフルーツもあります。


写真をもとに描いた版画



(4) パッションフルーツ (passion fruit, トケイソウ科)


 ブラジル原産のトケイソウ科の植物。25年前に百貨店で1個300円くらい。品種が色々あるようです。私の食べたのは黒に近い深いグリーンの果皮で、輪切りにしてスプーンですくって食べました。酸味が強く、甘味は少ないです。種ごと食べるのでプチプチ感があります。本に書いてあるようにバニラアイスクリームにかけて食べると美味でした。今でも余り普及していないので食べた人が意外と少ない果物です。沖縄、奄美の国内産が出回っています。おみやげ用等高級品扱いで25年前と余り値段は変わらないようです。


(5) チェリモヤ (cherimoya, バンレイシ科)


 南米亜熱帯原産の落葉高木。果実は握り拳より少し大きいくらいで色は暗緑色、果肉は白。香り、甘味共に強く酸味も少しあります。収穫してから追熟させ、やわらかくなったところで冷蔵庫で冷やして食べるとおいしいということで、10年前に1個1200円に挑戦。「冷やして食べるとバニラアイスのよう」とよく書かれていますが、ちょっと違うかなという感じ。スペインでも高級果物ということです。最近は少し値段が下がってきていますし、国内の栽培も増えているようです。スーパーでも見かけるようになりました、話の種に一度試してみてください。日本人にも向いていると思います。


半分に切ると