**みやび通信第17号(通刊第53号) 2004 (平成16) 年3月1日 発行:KAZU**

第 17 号
お く さ ん




 梨の花を見たことがありますか。日本梨は一般に棚作りをします。棚いっぱいに咲いた梨の花は大変きれいなもので、果物の花では一番だと私は思います。季節も暖かくなってから咲くので桜や梅の花以上にはなやかな雰囲気もあります。後の人工授粉作業を思うと憂鬱になりますが…。西日本の梨の産地と言えば鳥取県。米子市は祖母の郷であったので、子供の頃、毎年梨を頂きました。と言っても、そこらにある普通の梨ではありません。1個が500グラム近くある大きな梨です。

 「日本梨は二十世紀のような青梨と長十郎のような赤梨に大別される」と学生時代に習いましたが、最近は二十世紀も長十郎も姿を見る機会が少なくなり、代表選手は新世紀と新水ということになるのでしょうか。赤梨と青梨の交配品種もあって、区別も難しくなってきました。青梨は果皮にコルク質が少なく黄緑色、赤梨は果皮にコルク質が多くて赤みかかった褐色です。
 梨は虫媒花ですが、自家不稔性で自分の花粉では結実しません。その上、果樹の世界ではよくあるのですが、苗木を作ったり品種更新したりするときに接木します。接ぎ穂が同じ枝から取られていると結果的に皆同じ遺伝子をもつ個体つまりクローンですね。そうすると尚更受粉ができなくて稔りが悪くなります。二十世紀梨などは突然変異の枝変わりからできた品種で日本全国どの二十世紀梨の木も元は同じ枝で、二十世紀同志の花粉では結実しないのです。それで冷凍保存された他の品種の花粉を使って人工授粉をします。梨の棚の高さは160から170センチ、筆に花粉を着けて雌しべの頭をなでていきます。花の数は1000や2000ではないですよ。ずっと上向きの首の痛くなる大変な作業です。秋の稔りを期待してひたすら続けます。ひとつ救いは真夏でないことです。


 さて、先の話に戻りますが、その大きな梨は「晩三吉(おくさんきち)」という品種です。「ばんさんきち」と読むこともありますが、通称「おくさん」。「晩」は「晩生(おくて)」の「晩」で「早生(わせ)」に対する言葉で、収穫期が遅いものを指します。晩三吉は日本梨の中で最晩生の赤梨の品種です。新潟県で作出されたものだそうですが、暖地向けの品種で新潟での栽培は余り聞きません。
 一般に果物は早生よりも晩生の方がおいしいとされています。たとえば桃なら梅雨明けに店頭に並ぶ早生品種よりも盛夏に出回る大久保の方がおいしいです。桃なら実感できるのですが、梨については当てはまらないという気がします。晩三吉の収穫期は10月末から11月にかけてで、貯蔵性が高く流通は三月まで続きます。鳥取ではお正月まで置いておいて食べるそうで、我が家でもお正月に食べたりしました。梨としては酸味が強めで甘味が弱く、果肉はやわらかめ、あっさりした味が特徴です。
 以前は贈答用に百貨店にしか出回っていなかったものですが、最近ではスーパーでも見ることができるようになりました。ネットショップなど通信販売でも買うことができます。先日スーパーで見たものはちょっと小振りでお値段も300円と随分安かったです。梨の品種は結構古いものが今も流通していますが、新しい品種で「豊水」という大果もあります。こちらは中生です。

 「おくさん」、古くからある品種ですが珍しいものなのでちょっと試してみては。今期はもう遅いので年末あたり果物屋さんを要チェック。贈り物としても良いですよ。梨嫌いからの梨のお勧めでした。