**みやび通信第18号(通刊第54号) 2004 (平成16) 年4月1日 発行:KAZU**
第 18 号
Plant Lice
★Voici le prentemps !
春になると草木の新芽が伸び始めます。春風にくすぐられて、あっという間にシュートが伸びて若葉が展開していきます。新芽の先はやわらかくて、若菜摘み、山菜料理等にもってこい。ツクシにワラビ、ゼンマイ、ヨモギ、ヨメナ、オオバコ、ヤブガラシ…。でも、新芽を好むのは人間だけではありません。虫たちも同様です。中でも新芽の先、若葉の裏にぎっしりとコロニーを作るアブラムシ(アリマキ、aphis)は春の息吹とともに急に姿を見せます。
アブラムシは英語ではAphid (Aphis) と言いますがガーデニング用語ではPlant lice (植物の虱) とも呼ばれます。分類学上は昆虫類、半翅目でカメムシ、セミ、ウンカ、ヨコバイ、カイガラムシ等々と同じ仲間です。日本では600種以上が記載 (新種として命名発表) されていますが、シノニム(同種異名)が多くて、整理が進めば400種位になると言われています。とても種類の多いグループです。
ご存知のように、植物の害虫として有名で、寄生することで植物体が弱るだけでなくウイルス病の媒介、排泄物が葉の上に落ちてその上にカビ等が繁殖して煤病になったりします。公園の木の下に車をうっかり停めたりすると、雨のように排泄物がボンネットの上に積もり後で洗車に難儀したりもします。
嫌われもののアブラムシですが、私は二年間卒論の対象にこの虫を選んでつきあいました。髪の毛や服に着くと大変厄介なやつらですが、じっくり見てみると魅力的なところもあります。
●実に多種多様カラフルな虫です。
一番の魅力はその多様性です。大きさは数ミリながら形といい色といい、同種でも寄宿植物によって、時期によって微妙に色と形を変えます。クギケ (釘毛) アブラムシは体毛が釘の形をしています。キョウチクトウアブラムシは鮮やかなオレンジ色。エノキワタアブラムシはロウ質の綿状物質を体にまとっています。(写真をクリックするとオリジナルサイズで表示します)

●メスだけで増えます。
生活史は複雑ですが、条件の良いときはメスだけで殖えます。おまけに卵を産まず小虫を産む卵胎生です。そしてさらに逆子専門、常に小虫はお尻から生まれます。かなり頻繁に産むので、簡単に出産に立ち会うことができます。
● 移動が必要になると羽が…
移動の必要がないとき、生活環境が快適なときは成虫にも羽がありません。ところが移動の必要が出てくると、やがて羽のある成虫が現れます(有翅虫)。有翅虫もまたメスで移動して小虫を産んで新しいコロニーを作ります。この有翅虫は黄色に集まる性質を持っています。小さな虫ですから自力ではそんなに高く飛べませんが、風に乗ったりして結構移動するようです。そして黄色の波長に引かれて新たな住処を見つけます。春先五月頃、黄色の服を着たりしていると小さな虫がピッと留まります。これがアブラムシの有翅虫です。
学生時代、黄色の洗面器に水を張って空き地や圃場に置き、入る有翅虫の数と種類を調べるという調査を二年間やりました。真冬には0という日もありますが、5〜6月のピーク時には一日に300以上という数の有翅虫が洗面器に飛び込みました。調査した場所ではマメアブラムシという黒いアブラムシが多かったので洗面器の水面が黒かったです。これをすくってアルコールの入ったビンに入れて持ち帰り、種類と数を調べます。大半が普通種なので、顕微鏡の下で選別して数えるだけですが、中には稀な種がいると数百種もいるグループですから名前の同定 (種名の決定、identify) 作業は難しいです。永久プレパラート標本にして調べることになります。
●秋にはオスが
秋深くなると多くのアブラムシのコロニーは姿を消します。有翅虫の中にオスが現れて、メスの方には卵を産む虫が出現、交尾して卵を生みます。そして冬を越す訳です。アブラムシの生活史は調査によってどんどん解明されていますが、生理的なメカニズムについてはなかなか研究が進んでいません。
●中には役に立つ種も
五倍子をご存じでしょうか。漢方の薬剤として利用されるものです。これはヌルデというウルシ科の植物につくヌルデアブラムシが葉に寄生することでできる虫こぶです。虫こぶの中ではアブラムシがコロニーを作って増殖し、やがて大量の有翅虫が虫こぶから飛び立っていきます。五倍子はこの虫こぶを蒸して乾燥したものです。アブラムシが寄生することによってヌルデの葉の組織が変化し、薬効成分が多量に生成されるのです。こういう役に立つ種類もいます。
●最後に、駆除方法を
畑で作物を作っておられる方は別として、鉢植えや花壇程度ならばやはり薬を使うのが早いです。タバコを吸われる方はコップに吸殻を入れて茶色くなった水を霧吹きで吹きかけます。筆やブラシで落とすのは時間がかかる上に虫が小さいので見逃す可能性が大。一匹でもコロニーを回復する力があります。実や葉を食べるのが目的でないならアブラムシやカイガラムシ用の浸透性の薬剤が良いです。直接虫にかからなくても植物体に浸透して虫を駆除してくれます。